古本LOGOS 
いわしの読書日記改め、古本屋&ブックカフェ通信

07 April

季節を食べる

 能登で暮らすことの醍醐味は、季節感をダイレクトに感じられることだろうか。自然が厳しいと天候の移り変わりにも敏感になる。半島最北の珠洲では、私の暮らす内浦側と、波の花で有名な外浦側がどちらもひとつの「市内」なので、今夜の風はどちらから吹くのか、外浦では波が高いのだろうかと、そんなことが気にかかる。
 雪の中からフキノトウが顔を出し始めると、それは春が近づいた証拠。地球規模で考えると季節感のバランスはここ数年、いたく崩れている。とはいえ、立春が近づいて散歩の途中にフキノトウを初めて見つけたときは、嬉しい。天ぷらにしてもよし、フキノトウ味噌にしてもよし、のほろ苦いあのフキノトウの味覚を口にした瞬間から、私の中で春が始まっている。
 コゴミ、ウド、ワラビにゼンマイ、そして名前は知らないけれども食べたら美味しい山菜はいろいろある。ある日の夕餉の食卓に、こんなメニューが並んだ。「タラの芽の天ぷら、セリの油炒め、菜の花のおひたし」。
 菜の花は辛し和えにしても美味しい。ほっておけばスギナになってしまう土筆さえ、適切な時期に摘み、ハカマをとって灰汁抜きをして胡麻和えにすれば、これは立派なご馳走になる。それからタンポポのサラダもいただける。山歩きが好きな人なら、春の能登は充分に楽しめる。タケノコの初物をおすそ分けにいただき、昆布と炊こうか、筍ご飯にしようかと、そんなことを考えながら私は田植えの準備を手伝っている。
 真冬に沖縄に行ってみたり、夏の盛りに北海道を訪れたり、異なる土地へ旅行をする行為は、お金を出して季節を買うような行為にちかいともいえる。能登半島はコンビニエンスストアではないので、いつでも思うような季節の食材を、訪れてくれた人々全員に望むだけ提供することはできないが、それでも運がよければ季節の恵みを充分に味わえるところだ。旅行地の先々で暮らす普通の人たちとたくさん話をする中で、ガイドブックには載っていないあなただけの能登半島が見つけられるのでは・・・と思ったりしている。
  (「能風爽快第2号・2005春夏号」より一部修正して掲載)
09:22:01 - nanamin - No comments - TrackBacks